日本の主要な温泉地は火山地域に分布している。地熱発電所は大量の熱エネルギーを必要とするので火山地域の地下1千~3千メートルの深部熱水貯留層の200度前後の熱水を生産井で大量に湧出させて発電している。温泉法は地中から湧出する25度以上の温水を温泉と定義する。すなわち、地下で生じた温水は地下にある時を熱水、地表に出たら温泉と名称を区分している。従って、深部熱水は温泉の源なので、地熱発電所と主要温泉地とは競合関係にある。
しかも、地熱発電所は使用熱量が箱根や草津などの大温泉地の温泉熱量と同等か、さらに数倍も多く、温泉湧出に影響を及ぼすことが予想される。
温泉枯渇や水蒸気爆発などがニュージランドやフィリピンの地熱発電所の近くで起きている。日本でも霧島(鹿児島県)の噴気地帯の消滅、黒川(熊本県)や会津西山(福島県)の温泉の減衰や小さな地震が近傍の地熱発電の稼働開始と時期を同じくして起きている。
日本の地熱発電所は1966年に岩手県松川で稼働してから97年までに北海道から鹿児島まで全国17カ所で稼働している。
地熱発電所はいずれも稼働開始後、発電能力が経年的に低下している。発電量は97年から2012年の15年間に平均して30%減少し、湧出する熱水と蒸気とともに温度も低下している。
深部熱水貯留層の熱水は数千年から数10万年かけて少しずつ蓄積されている。再生可能エネルギーとは太陽熱や風力のように「消費するより速い速度で再び補給されるような自然から得られるエネルギー」と説明されている。
地熱発電の発電量減少や熱水の温度低下は貯留層の熱水使用量が貯留層への周辺地層からの水量や熱量の補給量を上回り、貯留層の蓄積熱水(化石熱資源ともいう)まで使用していることによる貯留層熱水の減少(枯渇化)と推定される。従って、大量の熱水を必要とする地熱発電は再生可能エネルギーの使用とはいえない。
日本人は温泉を神代の時代から今日まで利用している。長年の温泉関係者の経験と努力により現在の温泉利用は地下の熱水循環(再生)とバランスがとれていて、これはまさに再生可能エネルギーの使用といえる。
ところで、熱水貯留層の熱水は地表までの上昇過程で一部が蒸気となり、その噴出力(沸騰中のヤカンの蒸気を想像してほしい)でタービンを駆動して発電をしている。地表での割合は蒸気が約30%、熱水が70%。発電後の蒸気は多くが大気中に放出され、失われる。熱水は猛毒のヒ素を環境基準の10~5千倍も含んでいる。フィリピンでは河川への地熱発電の熱水排水で子供ら多数の死亡事故が報告されている。
地熱発電の熱水は河川排水や浴用にもできないので還元井で地下に戻(還元)している。また、噴出で低温化した熱水の地下還元は噴出による貯留層の熱水不足を補うためでもある。
還元熱水にはまだ問題がある。湧出した熱水は温度と圧力の低下によって溶存成分の一部が結晶となり、管や流入する地下の地層のすき間を閉塞させる。そこで地下還元を容易にするために熱水から結晶が出ないように硫酸が添加されている。しかし、硫酸は鉄をも溶かすように硫酸で酸性化した還元水が岩石地層を変質させ、また、地下水の汚染ともなっている。この汚染された低温水は地下環境を変えると共に低温化や近くの浅部温泉層への混入も予想される。
温泉は素裸での入浴や飲んだり、医療にも利用するので、地上に出たものを地下に戻すことを一般的に禁じている。これらのことから温泉地と地下環境も変える地熱発電所との共存は熱水の利用と資源保全の面からも不可能と考えられる。